第62回 米中将の対イラク戦争観

  <ニューヨーク・タイムズ>の10月12日号に<Ex-Commander Says Iraq Effort Is ‘a Nightmare’ 「悪夢だ」 イラク侵攻で前司令官述べる>という記事がありました。
  「前司令官」というのは、イラクのアブグライブ収容所で起きた捕虜虐待事件のころにイラク侵攻米軍の司令官だったリカルド・サンチェス(退役)中将のことです。
  2004年に司令官の職を解かれ、2006年に退役しています。
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  “incompetent"
  「無能な」「役に立たない」
  中将は<the Bush administration’s handling of the war ブッシュ政権の対イラク戦争の進め方>を“incompetent”と断じ、その結果、状況は
  “a nightmare with no end in sight 終わりが見えない悪夢”
  になっていると述べています。
  中将はまた、ブッシュ政権
  “catastrophically flawed, unrealistically optimistic war plan 破滅的に欠陥だらけで、現実離れした楽観的な戦略”
  を抱いていたと批判しています。
  そのことが
  “After more than four years of fighting, America continues its desperate struggle in Iraq without any concerted effort to devise a strategy that will achieve victory in that war-torn country or in the greater conflict against extremism 4年間以上戦ってきたあともまだ、アメリカはイラクで死に物狂いの戦いをつづけているが、戦争でずたずたになったあの国で、あるいは、過激主義に対するいっそう大きな戦いで、勝利を達成するための戦略を考え出そうとする一致した努力は欠けたままだ”
  という状態を生んでいるというわけです。
  “There has been a glaring and unfortunate display of incompetent strategic leadership within our national leaders 戦争を行うに当たって、わが国の指導者たちが戦略的に無能だったことは、あまりにも明らかで不幸なことだった”
  とも中将は言っています。
  そうなったのは、文民の指導者たちが“derelict in their duties 自分たちの義務に怠慢であり”
  “lust for power 権力への渇望”
   という罪を犯していたからだ、と考えるからです。
  サンチェス中将についてこの記事は、公平さを保つために
  "General Sanchez has been criticized by some current and retired officers for failing to recognize the growing insurgency in Iraq during his year in command and for failing to put together a plan to unify the disparate military effort サンチェス中将は、中将がイラクで司令官を務めていたあいだに反抗勢力の成長に気づかなかったことと、米軍による懸命の軍事努力をまとめ上げる計画を練ることができなかったことで、現役・退役軍人たちから批判されてきた"
  とも伝えています。
  ですが…。
  フセイン大統領が捕らえられたあと、ブッシュ大統領海上航空母艦に戦闘機で降り立ち、喜色を満面にたたえて(時期尚早の)“勝利宣言”を行いました(あれから何千人のアメリカ軍将兵、何万人のイラク国民が落命したでしょうか?)
  あの目立ちたがりで的外れ、滑稽で悲惨なパフォーマンスを思い出す人は、サンチェス中将のブッシュ政権批判に同意するに違いありません。
  サンチェス中将の能力にも問題があったとすれば、それは結局、そんな人物を司令官に任命(することを許可)したアノ大統領に問題があったわけです。
  アメリカがイラクで行っている戦争は、傲慢な愚か者が始めた愚かな、非道な戦争です。
  いまでは、アメリカ国民の大半がうんざり、辟易している戦争です。
  アフガニスタンでの対タリバン・アルカイーダ戦争とは違います。
  サンチェス中将の政権批判の背後には、そんなアメリカ国民のムードがあったはずです。
  ところで…。
  インド洋上で海上自衛隊から給油を受けたアメリカ(やパキスタン)の艦船の任務の一つは“海上警備”だそうですね。
  でも、何に目を光らせようというのでしょう?
  「テロ対策特別法」が想定しているところでは、警戒の対象になっているのは(少なくとも名目上は)タリバンとアルカイーダですよね。
  でも、タリバンとアルカイーダには海軍も空軍もありません。
  インド洋へのアクセスも(まだ)持っていないはずです。
  どこかの国の軍艦か民間の船舶がタリバンとアルカイーダに海上から武器などを供給する恐れが現実的にあるのでしょうか?
  自衛隊による給油活動と対タリバン・アルカイーダ戦争には、大雑把に広げられた“テロとの戦い”という言葉が言いたがっているほどの関連が本当にあるのでしょうか?